生き神クマリ（Living Goddess Kumari）

ネパールには数千もの神々がいると言われるくらい多くの神々が存在する中でナラデビ女神の娘の一人カウマリという女神です。カウマリからクマリと呼ばれるようになったと伝えられていますが、Kumariはネパール語で少女という意味もあり、少女の時期だけ「生き神」とされ、民衆の願いが叶うようにと祈りながら日々を過ごしていると言われます。物語によると数百年前、ヒンズーの国王がタレジュ神とサイコロ遊びをしていた際、国王が女神に色目をつかった事に怒り次に現れるときに純真無垢な乙女の姿で現れると言い残し去り、以来少女に宿り姿を見せる事になったと言われています。

クマリに選ばれるのは、初潮前（血はけがれとされているため）の、ネワール仏教徒のサキャ出身の少女に限られます。少女は仏教徒でありながら、クマリに選ばれるとヒンズー教になるので、宗教的融和の象徴にもなっています。クマリに選ばれた少女は３〜５歳の頃に親元を離れ、ダルバール広場（旧王宮広場）にある「クマリの館」で世話係と暮らしを始めます。年に数回のお祭りのとき以外、彼女が館の外に出る事はなく、学校にも行きません。足が地面についてもいけません。

クマリになる条件は、体の全ての部分が健康で目、耳、頭、動作、行い、歩き方など32あるとされます。更には国王との占星学上の相性も加味されます。

クマリに選ばれる条件
一 足は均整が取れ、裏の筋が円を描いている事
一　神のような脚線
一　手はやわらかく繊細な事
一　ライオンのような胸
一　ほら貝のような頬
一　青又は黒の目と牛のようなまつ毛
一　スズメのような低い声…などです。

クマリの選考は、ダサイン祭の8日目の夜中、僧侶に連れられて、タレジュ寺院で行われます。恐ろしいうめき声や音のする、血がしたたる水牛の生首が置いてある真っ暗な小部屋に通され、クマリ候補の少女は独り、そこで一夜を過ごさなければなりません。ケガや初潮による出血が見られ、その身体に宿る聖性が失われると次の新しいクマリに交代します。

クマリは多くのネワール族が住むパタン、バクタプール、ブングマティ、サンクなど町や村にも存在します。これらのローカルクマリには直接会う事も出来、ティカもつけてもらえます。カトマンズのクマリは別名「王のクマリ」と呼ばれ、国家や王家の命運に関しても予言されると言われています。
インドラジャトラの祭事などでは、元首もクマリの前へと出向き、礼拝します。クマリはその力で人々に影響を与えたり、予言を行ったりすると言われていますが、決して言葉でそれらを伝えることはしません。笑うことも、言葉を発することもなく、ただその身ぶりや表情で神の意思を表すだけなのです。クマリの酔った様な状態は疫病を、また落ち着きのない目は外国からの戦略を予言すると信じられています。

＊＊＊インドラジャトラ祭り＊＊＊
一年に一度、金色の山車に乗ったクマリが市街を廻って邪を祓（はら）うというのが、クマリの祭祀（さいし）とも言われる「インドラ・ジャトラ」なのです。インドラジャトラは10日間続きますが、山車はカトマンズの下町・中町・上町と3回牽かれ、山車の通り道にあるいくつかの舞台ではナラデビナァツ（ナラデビ女神と家族の神々の踊り）、マハンカルナァツ（カリ女神の物語の踊り）などが披露されます。クマリ、ガネシュ神、バイラブ神がそれぞれ乗った３つの山車と、グルカ兵の楽隊、ラケェ・プルキシ・サワバグなどの面を被った者が練り歩きます。人々は彼らにチューラ（ご飯をつぶして乾燥させたもの）や肉、酒、果物、昔ながらのお菓子、花、お金などさまざまなものを捧げます。
今年のインドラジャトラは９月２２日になります。ぜひ皆様もクマリとインドラジャトラ祭りを見に行きませんか。

2010/05/10(mon)